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広島高等裁判所 昭和48年(う)221号 判決 1974年6月04日

主文

原判決中被告会社に関する部分を破棄する。

被告会社に関する本件を広島簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人藤村忠雄作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官検事岡本清一作成の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論に対する判断に先だち職権をもって調査するに、記録によれば、被告会社は本件により昭和四六年七月三〇日当時被告会社の代表取締役であった原審相被告人石岡厳とともに起訴され、原裁判所は同年一〇月八日の第一回公判以降昭和四八年九月二八日の第一一回公判に至るまで共同審理をして結審し、同年一〇月二六日の第一二回公判において判決の宣告をしたが、右各公判期日には原審相被告人石岡厳が被告人本人および被告会社の代表者の双方の資格を有するものとして出頭していることが明らかであるところ、≪証拠省略≫によると、右石岡厳は昭和四七年九月一五日被告会社の代表取締役ならびに取締役を辞任し(被告会社には石岡厳のほか蘭雅雄、蘭忠夫、築地スマ子の三名がいずれも代表取締役に就任している)、同月一九日その旨の登記がされたことが認められるから、原審における訴訟手続中被告会社に関しては、昭和四七年七月二一日の第五回公判までの分について石岡厳が代表者として出頭していたことになるが、同年九月二九日の第六回公判以降第一二回公判の判決宣告に至るまでの分については、代表者が出頭しないで公判手続がされたことになるといわざるを得ない。ところで、刑事訴訟法二八六条によれば、同法二八三条ないし二八五条に規定する場合を除くほか被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができず、法人である被告会社にそくしていえば、法人を代表する代表者(同法二七条)が出頭しなければ公判を開廷することができないものである。そして、本件はへい獣処理場等に関する法律一二条、一〇条二号違反の罪であるから、前記除外規定のうち刑事訴訟法二八四条、二八五条一項に該当する場合でないことは明らかであり、同法二八五条二項は原審第一二回公判の判決宣告期日には適用がないのみならず、記録を見ても、原審がその余の原審第六回公判ないし第一一回公判において右規定により不出頭を許可した形跡は毫も認め難く、また、前記のごとく被告会社の代表者の資格を失った石岡厳において、原審第六回公判以降の各公判期日に同法二八三条にいう代理人として出頭したものとみることも困難である。して見ると、原裁判所は前記石岡厳が被告会社の代表者の資格を失った事実を看過してそのまま石岡を代表者として審理を継続したとみるの外はない。

そうすると、被告会社については、原審における訴訟手続中第六回公判以降の分につき代表者の出頭なくして公判を開廷し、審理判決をした違法があり、この誤りが判決に影響をおよぼすことは明らかであるから、原判決中被告会社に関する部分はこの点において破棄を免れない。

よって、弁護人の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決中被告会社に関する部分を破棄し、原裁判所において被告会社に関する原審第六回公判以降における訴訟手続につき適式な審理を尽くさせる必要があると認め、同法四〇〇条本文により被告会社に関する本件を原審である広島簡易裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牛尾守三 裁判官 村上保之助 丸山明)

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